アジアの照明デザイナーが見る東京夜景

オリエンタルな共通認識

photo by Toshio Kaneko
投稿日:2013,2,7

 

東京にアジアの照明デザイナーが集まった

こんにちは。東海林弘靖です。今回は、昨年11月に開催したトークイベント「照明力特別企画 ASIAN POWER OF LIGHT(アジアンパワー・オブ・ライト)」のレポートをお届けしたいと思います。

このイベントは、前回も少しお話いたしましたが、円卓会議・照明楽会(内原智史+東海林弘靖+武石正宣+東宮洋美+富田泰行)が2002年より毎年、冬の時期に開催するイベントの2012年版として開催したものです。

今回は、中国、韓国、タイというアジアの国で活躍する照明デザイナー5人をお迎えし、それぞれの国の動向や文化性を語っていただくというイベントとなりました。なにせ初めて海外からゲストをお呼びしたもので、中・韓・英⇔和の同時通訳を聞きながらの凄いイベントとなったのです。




人、風景、街、歌からアジアを体感し・・・

photo by Toshio Kaneko

今回、イベントは11月10日の1日限りの開催で、午前10:30から午後5時過ぎまでの間に第3部に分けたトークセッションで構成されていました。

セッション1となる午前の部は「アジアン10×10」と題し、各国の照明デザイナー10人が10分という限られた時間のなかで好きにプレゼンテーションするという企画を行いました。その後、一旦昼休みが入り、午後は「アジアのまちと光」、「アジアのうたと光」というテーマでディスカッションを行いました。

午前中は自由なプレゼンテーションだったので、街の様子やプロジェクトだけでなく人や地域性を肌で感じられるような内容でしたし、午後はさらに具体的な各国の比較や、歌を通したより感覚的な印象をつかめる内容となっており、全体を通してとても濃密なイベントとなったと思います。

しかし、今回濃密だったのは内容だけでなく、“時間”も濃密だったのがこのイベントの特徴であり、それがアジアの方々を圧倒するきっかけとなったのです。この話は実に前日から始まります。



仕事にも見られる日本の特徴

前日、アジアの照明デザイナーのみなさんにはせっかくなので東京の夜景をご体感いただこうと、「ナイトライトツアー」を企画しました。

さすがの企画でしょ!大型バスをチャーターしてアジアの照明デザイナーたちに東京の夜景をご覧いただくという内容。「アッ、これは僕の仕事、次は○○さんの・・・」なんて、もちろんきちんとデザインの解説をしながらも、ちょっとプチ自慢的な話題を振りつつ、「でも今日は点灯してませんね・・・」と少し恥ずかしかったり、笑いも沢山飛び交うユニークなツアーとなったのです。
 
当日は日没前の4時半にゲストが宿泊する六本木のホテルを大型バスで出発しました。東京の旬な夜景と言えば、東京駅丸の内のライトアップ、そしてスカイツリーが定番でしょう!ということでバスは一路スカイツリーを目指しました。しかし、時は金曜日の夕方、東京の街は大渋滞だったのです。

実は、このバスツアーの後にはレセプションパーティが用意されておりましたので、それまでにホテルに戻る必要がありました。そこで、急きょスカイツリーは遠くから眺めるだけにして、次なるはゲートブリッジへ・・・しかし、これも極度の渋滞ゆえに、お台場の一角にバスを止め、海岸のフェンス越しの見学となってしまいました。

しかし、これが良かったのです。同じバスに乗る仲間として渋滞という敵に立ち向かいながら・・・東京の街あかりをカメラに収めるというミッションを共有することができたのですから! 片言の英語とほんの少しの中国語そして韓国語の単語を交わし、メンバーは次第に打ち解けた雰囲気となりました。

バスは、お台場からレインボーブリッジを渡りましたが、相変わらずの渋滞です。しかし、レインボーブリッジ上で動かなくなったバスは、広がる東京夜景のパノラマを見るには素晴らしい環境だったのです。スカイツリーと湾岸の超高層ビル群、そして東京タワー、ミッションの写真もとって銀座へとバスは移動しました・・・。煌びやかな銀座の街を通り抜け、なんとか予定通りの時間にホテルに戻ることができました。

それから、前夜祭としてのパーティが始まり、日本の照明デザイナーも30人ほど参加した和やかな夕べとなったのですが、とにかく盛り上がりました。こんな風に翌日のイベントも中身を濃いものに、そして時間きっかりに進み、2日間にわたる私たちのイベントが実行されたのでした。

全てのイベントが終了して、「ありがとうございました」とアジア各地からお招きした照明デザイナーと握手を交わしていた時に、意外な言葉を頂きました。それはゲストの皆さんすべてが口をそろえて発した言葉「日本人の進行は、すごいです。時間ぴったりに物事を進めるってことは、とにかく素晴らしい!」と。

「イイエ、ワタシタチハ、フツウ二ヤッタダケ」と意外な褒め言葉に戸惑ってしまいました。
確かに、日本人は時間やあるいはモノづくりに正確性を追求します。そしてそのクオリティは高いものだと世界が認めています。そのことは、照明デザインにおいても同じように進められているのかもしれません。これは嬉しい評価ですし、私たちは自信を持つ内容です。しかし、一方でそれが保守的はネガティブな要素につながることもあります。そこはむしろ中国や韓国、タイにみられるダイナミックで大らかさを学ぶところでしょう!

これからは、そんな違いをお互いに学び刺激しながらともに、デザインの技量を伸ばしてゆきたいと感じたのでした。こんな風にお互いの良いところを学びあえる楽しい催しとなったのが2012年照明力イベントの一番の収穫だったのではないかと思います。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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