Vol.32│ニューヨーク、3つの出逢い

ヒトからモノから 刺激が楽しい

投稿日:2013,7,18
photo by jphilipg

 

仕事でニューヨークを訪れて・・・

昨秋から今春にかけて3回ほどニューヨークに出張してまいりました。4月にSOHO地区にオープンした日本のファッションブランド「pas de calais」という店舗の照明デザインを担当させていただいたのです。この店舗のデザインの話は、今回のブログのテーマではないので、別途ライトデザインのHPをぜひご覧ください。(→詳細はこちら

さて、NYという街に初めて行ったのは今から25年前のこと、その後この街にある照明デザイン事務所との共同デザインをする機会を得て、約ひと月住んだことがありました。その後も照明器具の見本市が行われるたびに訪れることがありましたが、ここ7、8年はすっかりご無沙汰しておりました。久しぶりに訪れたこの街は、相変わらず世界中から人が集まって活気にあふれていました。そして新しい建築やデザインがとても刺激的に感じたのです。たとえば、ミラノやパリなど、ヨーロッパの街に久しぶりに行くことに比べても、NYのスピード感はその10倍くらい早い感じがいたします。

さて、今回は、久しぶりのニューヨークでであったいくつかのヒト・モノについて綴ってみたいと思うのです。





ショールームで話題の最新作をゲット!

まず最初にご紹介したいモノは、SOHOにあるインゴ・マウラーのショールームです。インゴマウラーは照明好きならご存じのとおり、ドイツのデザイナーで、翼を持った電球スタンドやクリップでメモ紙が留められているシャンデリアなど、とても独創的なデザインの照明器具を輩出する「光の詩人」とも呼ばれる人物です。以前にこの前身ブログでも紹介したことがありました。

その直営ショールームがあるというのが、さすがNY!といったところなのですが、店前を通るとウィンドウ越しに今年のミラノサローネで発表された話題の新作が並んでいるではありませんか!? それは、薄いむき出しの電子基板に小さなLEDスクリーンが設置されたLEDキャンドルなのですが、ただキャンドルと炎をそのままかたどった従来品とは全く異なっています。スイッチを入れると平面のLEDスクリーンにはゆらゆらとした炎が灯り、その動きは全くの本物のようなのです。

新製品は、今年4月のミラノサローネで発表したばかりというのに、ほぼ同時に発売されているとは思いませんでした。さすが直営店、さすが新し物好きの集まるNYなのだ! そう感動しながら、まずは一点購入いたしました。本体が赤いものと黒いものがありましたが、迷わず赤い方を選びました。理由はこちらの焔の色味がやや赤みを帯びているような気がしたからなのです。大満足のモノとの出会いとなりました。




NYで“学ぶ”とは?

さて、次にご紹介するのはNYという街にやってきた、とある元気な青年です。今回一緒にNYを訪れていたプロジェクトメンバーの一人が、NYに留学している友達に会うというので一緒に夕食を共にしよう!ということになったのです。聞けば、その方は日本人で映画製作を学ぶために昨年よりこの地にある学校に留学しているというのです。

その青年・ナガサキ君は27歳の若者で「ニューヨークフィルムアカデミー」という映画学校に昨年の9月から通っているとのこと、そして今年の9月からはロサンゼルス校舎に移動して学ぶというコースを履修していました。まさに映画の本場である2つの地で教えられている内容とはいったいどんなものかについては興味深々なので、いろいろとインタビューしてみると、とてもおもしろい話を聞くことができました。以下彼の語録としてメモしたものを書いてみます。

1. 「映画とはアクションとリアクション、その繰り返しである」といった講義をするらしい。
つまり誰かが何かを起こして、次にそれをもとにコトが展開する・・・の繰り返しが映画だというらしいのですが、その映画の構図のようなものをたくさんの事例を上げてじっくりと説明するのだそうです。

2. 「映画はウソの連続だ」。そう言った先生は、「映画のなかで二人が見詰め合っているシーンを撮る場合には、本当に見詰め合っている演技をさせることはない。実際にはカメラを見つめる演技者を撮ることになる・・・つまり嘘で出来上がっているとの講義をしてくれたというのです。

3. 「置いてあるものには全て意味がある」例えば、食事のシーンで、なぜイタリアワインが置いてあるのか?なぜそんなに高くない赤ワインなのか?など、映画の画面に登場するすべてのモノには意味が隠されているのだ・・・

彼の話は、なかなか面白い内容で、忘れないように私は彼の許可を得てノートにメモをさせていただきました。ここニューヨークでは、このような映画の理論や哲学をしっかりと叩き込まれるそうなのですが、ただ技術やノウハウを教えるだけでなく、“映画とは何ぞや?”とそのココロを教えるといのは、照明の世界にもぜひ取り入れたい面白い学びだと思いました。



職人気質に感動

最後にご紹介するのはNYの電気工事屋さんです。外国での仕事は初めてのことではありませんが、毎回現地の電気工事屋さんとのコミュニケーションには、言葉や文化の違いによる問題が付きまといます。そして、その現場で最終的に綺麗な光が出せるかは電気工事士さんたちの手にかかっているので、このコミュニケーションはとても重要なものなのです。

また、電気工事士さんにもタイプがあり、仕事にとても興味を持ってくれる人、純粋に仕事としてしっかりと仕事だけを全うする人など、さまざまで、実際に会ってみるまでどんな人に当たるかはわかりません。今回はというと、NY在住40年という日本人の方がやって来たのです。聞くところによると、NYで唯一の日本人電気工事士で、日本の大学卒業後に渡米して以来その仕事をやってきたという人物でした。

この方、ヨシダさんは、私の照明デザインにとても興味を抱いていただけたのか、現場でのちょっとした不明点も先読みして「これはどうしようか?」と聞いてくれるのでした。海外の現場なので、せいぜい5日間ほどで私はまたすぐに日本に帰るというスケジュールであったのですが、その際にも何かあったら気軽にメールしてくださいと言っていただけたのです。おかげでかなりスムーズに仕事を進めることができました。さらに感動したことには、数回目に現場を訪れた際には工事でホコリがかぶってしまう照明器具が一個一個ていねいに磨かれていたのです。

「ヨシダさん、ありがとうございます!お陰様でとても良い光が完成しました」と、最後には挨拶させていただきました。すると、「そーかい? ちょっと難しい工事だったけどたのしかったよ! じゃまたな・・・」と笑みを浮かべながらトラックに職人さんを二人載せて現場を去って行ったのでした。「プロフェッショナリズム」、この一語に尽きるのでしょうが、どんな仕事も完璧にやりこなす!その信念のヒトがこんなたくさんの人種がひしめくこのNYにいらっしゃることに感動を覚えたのでした。

同時に元気と勇気をいただいたのかもしれません。久しぶりのNYでのヒトやモノから頂いたフィーリングは、今年の創造の糧にさせていただきたいと思っているのです。

 


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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