Vol.90|自然へのチャレンジ

オーストリア・チロルの自然に洗われて
投稿日:2016,01,14

ヨーロッパの旅より

明けましておめでとうございます。今年も、光のソムリエ・プルミエールでは、皆様に光にまつわるさまざまな話題を隔週でお届してまいります。どうぞブログをアップする隔週の木曜日を楽しみになさっていてくださいませ。

さて、2016年、新年は、新たな清々しい気持ちで仕事に打ち込みたいものですが、「清々しい」といえば、ちょうどそんな気持ちにさせてくれる体験をしてまいりましたので、今日はそのお話をご紹介したいと思います。

それは昨年末、ヨーロッパの照明事情の見聞を深めるため、工場視察ツアーを自ら企画したのですが、その最初の目的地オーストリア・インスブルックという都市での体験です。現地で一通りの視察を終えた後の休日に、人生初のロッククライミングに挑戦することとなりました。実は、自分からふとロッククライミングに挑戦しようと思ってやったわけではなく、かの地に住む友人に半ば強引に連れていかれた・・・といった具合だったのですが、これが思いもよらず非常に良い体験となったのです。



インスブルックという街

2年前のフランクフルトで行われた照明の国際見本市「LIGHT+BUILDING(ライトアンドビルディング)」で、このとき初めて知った「PROLICHT(プロリヒト)」という照明メーカーがありました。興味深い器具を手掛ける会社で、その社長のワルターさんとは、初対面だったのですが、その後お互いに「初めて会った気がしない!」という表現をしあう仲となったのです。そして、今回の訪問へと繋がったのでした。

この会社はオーストリアのインスブルックという、人口約12万人程度の小さな街にあります。ちょうどアルプス山脈の麓の、チロル地方と呼ばれるところで、山に囲まれた自然豊かな穏やかな地方です。羽田空港を深夜に出発して早朝のフランクフルトに到着、フランクフルトからは、プロペラ機に乗り換えて約1時間、山を越えたところにインスブルックがあります。そこは山に囲まれた美しい街なのです。

 



ハイキングに誘われたはずが・・・

インスブルックの滞在では、最終日がちょうど土曜日だったことから、ワルターさんからチロルの山をハイキングに行こうと誘われていました。アルプスの大自然の麓ですから、さぞかし楽しいだろうとワクワクしておりました。

ところが、当日の朝にはハイキングと言われていたはずが、トレッキングという話になっていました。ハイキングというと軽い山歩きのイメージ、それがトレッキングとなるとややごつごつした山を歩くイメージです。山歩き用のスニーカーを持っていたので郷に入れば郷に従うぞ!という思いで待ち合わせの場所へ向かったのですが・・・ワルターさんに会うと、今日は天気が良くないからハイキングは景色も楽しくない、こういう雲が多い日はロッククライミングをするぞ!と言うのです。

もちろん、私はハイキングかトレッキング程度と思っていたので、エェー!となりましたが、時すでに遅し・・・気づけばほぼ無理やりロッククライミング場で、体に安全帯を付けられていたのです。そして、ヘルメットを渡されながら、日本で空港を発つ際に加入した保険の記入項目が脳裏によみがえりました。危険なスポーツはしない、はず・・・。

コースのフェンスにはデンジャー(危険)の文字が。

 



自分との闘いと自然との対話

一通りの説明を受けた後で、いよいよ山に入ることとなりました。同行の数人は完全にリタイアし、山には私とワルターさんとの二人で入りロッククライミングをすることになってしまいました。

初心者のコースだという説明を信じて、いよいよ登り始めます。登り始めてわかったのですが、ロッククライミング場には足場のようなものが岩に打ち込んであり、順番に足をかけるようになっています。また、ステンレスワイヤーも渡されていて、3メーターおきくらいに体にくくった安全帯のフックをひっかけるようになっているのです。ワルターさんの説明によると、ひっかけるフックは2つあるので、必ず1つずつ引っかけるのというシステムがとられていました。安全を担保するフックは2つあるので、一つが外れたとしてももう一つが引っかかるので、滑落しても50センチくらいで止まるというわけです。

そして、アドバイスとして言われた言葉は、「下を見るな!」でした(笑)。下を見ると怖さが倍増するのだそうです。常にフックを操作し前へ進むのだそうです・・・。とにかく言われた通り、一個のフックをかけ、かかったのを確認したら、もう一個かけて、次のステップを上る・・・というルーティンを繰り返しました。これは多分、ルーティンを与えられ、そこに一生懸命になることで、高所の恐怖を感じる暇なくひたすらに取り組めるということなのだろうと思いました。そして、気づけば、結構垂直なところやオーバーハングしているようなところも自力で昇り、約一時間かけて頂上までフィニッシュしていたのです。

写真左:今回挑戦したクライミングコース。
写真右:ワルターさんと共に。後ろに壁面のワイヤーが見えます。

今回、強引に連れていかれたロッククライミングでしたが、終わってみて気分爽快でした。やり遂げた感じ、新たな世界を見ることができたという喜びをいただいたからでしょう。確かにこの出来事を通し、人が自然の中で知恵を使って生きていくという基本。自然の偉大さと、それに対する人間の力のなさを確認した上で、神に感謝しながら日々をおくるという原点を、また東京という高密度の都会で日々を送る中でこういった忘れているものを思い出させてくれたのかもしれません。何か一皮むけたような気分です。新しい考えでまた新しいデザインを考えよう!そんなことを強く考えたチロルでのロッククライミング体験だったのです。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




 

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