Vol.144|水と照明

人のこころを捉える光
投稿日:2018,08,24
photo by Art4TheGlryOfGod by Sharon

厳しい残暑も

今年は近年にない暑さが続きましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。お盆を過ぎて少しは暑さも和らぎ、秋の気配も漂ってきましたが、依然残暑が厳しいですね。こう暑いと、何か涼しく感じるような工夫をしている方も多いのではないでしょうか。照明を使った工夫と言えば、色温度の高い青白い光源に交換してクールな空間を作るというのがありますが、今回はさらに人のココロに働きかけるような照明ワザのひとつをご紹介しようと考えております。それは、照明と“水”をかけ合わせることなのです。



かつて学んだ水の照明演出

今から30年ほど前、都内某所に某証券会社の保養施設を作るというプロジェクトに携わることがありました。当時はちょうどバブル期に向かう頃で、証券会社は非常に勢いがあり、顧客をもてなすような施設に資金を投じる時代だったのです。そのプロジェクトは私の先輩が担当し、まだ修行中だった私はアシスタントとして携わることになりました。

巨大な天然石を用いた高級感漂う建物は、その企業の勢いを感じさせるものでした。この施設の中には、日本庭園があって、施設内の大きなバンケットホールからちょうど庭を眺めることができました。このプランを見て先輩デザイナーは、水と光が織りなす絶妙な仕掛けを考えていたのです。

それはバンケットホールで行われていたパーティが終盤に差し掛かって、人々がくつろぐ時間帯になっていった頃合いを見計らって、室内がすぅーっと暗くなります。そしてそのすぐ後に、滝の付近に仕掛けられていたスポットライトに光が灯ります。すると、その光は池の水面を叩き、跳ね返って、宴会場の天井にパァーっと水の波紋を映し出しました。水の揺れが照明により室内に映し出され、波紋が踊るように部屋に広がっていく・・・、それはとても華やかで美しい照明演出でした。
 
シャンデリアなどを使わずともこんなに素敵で人の心を和ませてくれるものを見てハッとさせられました。(駆け出しの照明デザイナーは、こうした経験を重ねてより強く照明デザインの虜になって行ったのです)



時代が移り変わっても心に響くもの

photo by Jackson Hendry on Unsplash

それから15年くらい過ぎたころでしょうか。照明デザイナーとして独立しLIGHTDESIGNを立ち上げた後に、ある研究所の照明デザインを担当することがありました。その研究所は非常にモダンな建築で、敷地内の建物と建物のあいだに水盤が配され、全面的に水が張られているというのが特徴でした。

研究員が施設の廊下を歩いて行ったときに、水が見えていたほうがやはり心が落ち着くだろうというコンセプトで設計されたものだったのですが、私としては先述の水の照明効果を仕掛ける絶好の機会がやって来た!という思いでした。水面が風によって波立つことで、反射した光が室内の天井に映像のような波紋を映し出し、陽が沈むころ、ふと通った廊下の天井で眼にする美しい水と光の協演は心を緩ませてくれたのです。

照明は、光を与えうる相性のよい対象物と出会ったときに、より生き生きと、魅力的な表情を見せてくれます。そして、それを受け止めるココロの準備が整ったときに出会う、シーンとしての工夫があれば、それらは三位一体となり、人の心に響いていくのでしょうね。

光は人の心に響くもの・・・、皆様にもそんな光との出逢いがあることを願って、精進を続ける日々です。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




Vol.141
Vol.141 照明のインフルエンサー?

Vol.142
Vol.142 恋する照明学

Vol.143
Vol.143 夜の森を視る照明

Vol.144
Vol.144 水と照明

Vol.145
Vol.145 ナイトライフエコノミーを考える

Vol.146
Vol.146 メモと照明デザインと私

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Vol.147 イライラと照明

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