Vol.145│ナイトライフエコノミーを考える

夜の消費を復活させるには?
投稿日:2018,09,10
photo by Thomas Ribaud on Unsplash

長年考えていたこと

最近、私の事務所のある銀座を歩いていると、世界各地からの旅行者とすれ違う頻度が極端にふえてきました。数年前までは圧倒的に中国からの観光客が多かったのですが、このところは世界各地からの多彩な旅行者で溢れています。実は、私の事務所が入っているビルの1階には外国人旅行者に人気のバーがあるのですが、夜になると毎日満席の状態が続いています。

このように日本は海外からの旅行者が増え、観光客到着数の世界ランキングでも上位にあがってきている一方、消費金額は世界50位前後と低いのだそうです。それを改善する策として最近注目されているのが、ナイトタイムエコノミーと呼ばれる「夜遊び経済」だというのです。

欧米ではミュージカルや音楽ライブ、ダンスクラブなど、大人が深夜まで楽しめる文化が根付いているのに対し、日本は夜に遊べるところが少なくてつまらないという声、それ故か外国人も気軽に立ち寄れるような数少ないバーが大混雑しているという現象が続いているのです。



日本の夜はいつからつまらなくなった?

日本の夜事情をひも解くと、1948年に制定された風俗営業取締法というのがあります。これは、深夜に踊ったりお酒を飲めるお店は午前1時までの営業と制限していました。

しかし、一方でバブルへと向かう80年台はディスコ全盛で終電を気にすることなく朝まで踊りまくっていましたし、ポストバブル時代はハウスやテクノを流すようなクラブが盛んとなって暗い照明の中、大音量をかけて瞑想するように朝まで踊っている空間がありました。実はこれは法的には違法行為だったということなのです・・・その後の取り締まりの強化で摘発され閉店に追い込まれる所も少なくなかったようです。

それが2016年にダンスを楽しむクラブの終夜営業を認める改正風俗営業法が施行されたことによって、ナイトライフエコノミーの活性化が期待されるようになり今日を迎えています。。



夜空間を考えて・・・

私は、25年くらい前から照明デザインの背景にある「夜の時間」というテーマで研究を続けております。ですから今回改めて、2018年の東京の夜時間を考えてみようとして、その当時使っていたシステム手帳を引っ張り出してみました。手帳のタブは、都市、建築、夜空間、アジア、人間、科学、文学、照明データ・・・といった当時の私の頭の中を見るような内容です。 “夜空間”を開き眺めているとこんな記述がありました。

―夜の時間がなぜ大切か? 働く人にとっては昼間は仕事の時間けれども、夕方から夜にかけてはじめてプライベートな時間がやってくる。だから、その時間を大切にする必要がある。そこを開発する余地がある。これからは夜を謳歌する人類というのが出てくるだろうと。それは”夜渡り上手人間”ということになる。
1996年11月27日

しかし、こんなメモもありました。7世紀に書かれた隋書倭国伝(ずいしょわこくでん)によると、夜は神の時間で、聖なる時間。昼は人が起きている俗なる時間。もしかしたら、日本人にはそういった感覚が継承されていて、夜は寝るものという感覚も強いのかもしれません。そういえば、近年はエネルギーや人件費削減で24時間営業のファミリーレストランやコンビニまで営業時間を早く終わらせる傾向もありました。



夜に求められているもの

こういった傾向もわからなくはありません。日本の住まい事情を考えると、都市部に人口が密集し、人の住む場所が働く場所からどうしても遠くなっていきます。東京で働いていても、住んでいるのは東京都心から電車で1時間くらい離れたところから通うという人は大勢います。すると、ウィークディの夜時間は、やはり終電に縛られてしまうことになるのです。

そこまで考えてわかることは、ナイトタイムエコノミーを活性化するには公共交通機関の延長も必要だということなのです。ニューヨークやロンドンでは24時間電車やバスが通っていますが、日本では最終電車という縛りがあります。これ以上遅くなったなら、あなたは家にかえることはできなくなるのです・・・。でも朝までやれとは言いません。例えばあと2時間くらい終電を遅らせられれば、その分12時過ぎまで行動できます。

また、夜遊びというと、お酒を飲んで、カラオケや踊り狂う遊びのイメージが強いですが例えば、シンガポールにあるナイトサファリという動物園は夕方開園し、夜の12時まで営業しているところがあったり、美術館も夜中まで開館するような企画があったりする時代です。夜遊びは、心の開放と捉えるとどうでしょう。いろいろな可能性が見えてきますね。じっくり読書を楽しむもよし、哲学にふけるもよし、アートと戯れるもよし。

私の当時の手帳を紐解くと、そんな夜型人間のことをそうして、“夜渡り上手人間”と記しておりました。我ながら、面白いことをいうじゃないか!と少々感動したりしていましたが、そんな人種が増えたら、夜渡り上手のプロを養成するガイドツアーなんてのも登場するかもしれません。これからの夜の時間はどんどん楽しくなっていくに違いありません!

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




Vol.141
Vol.141 照明のインフルエンサー?

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Vol.142 恋する照明学

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Vol.143 夜の森を視る照明

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Vol.145 ナイトライフエコノミーを考える

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Vol.146 メモと照明デザインと私

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