Vol.146│メモと照明デザインと私

照明デザイナーが記すのは・・・
投稿日:2018,10,12
photo by LIGHTDESIGN INC.

仕事で何をメモるか?

最近聞いた話によると、欧米のビジネスシーンでは仕事においてジャーナル、つまり日誌をつけることが奨められているそうです。それは上司への報告といった業務日報のようなものではなく、自分のキャリアゴールを見据えて自身の主観的な思いなどを記すということらしいのですが、確かに以前一緒に仕事をした海外のビジネスパーソンが会議中あるいは会議の直後に黙々とノートに何かを書き綴っているのを見たことがあり、一体何を書いているの?と聞いてみたことがあります。



忘れないうちに記しておきたいこと

その方はB5版ノートを開いて、その左上から、バーッとひたすら英語の文字を書いていました。行間も小さく、そのノートにはびっちりと言葉が埋まっていました。何を書いているのか尋ねると、いや忘れないうちに打ち合わせの実況中継を書いておくんだよと言うのです。

たとえば、この打合せの中で、こういう人がこういう立場で私たちの提案に対してあまり乗り気ではなかったけれども、この言葉には少し反応したみたいだ・・・なんて、その場の雰囲気などを主観的に書いていたのです。つまりかなり主観的にジャーナルをつけていたのです。

それが何かアメリカ風でカッコよくみえたのでしょう!私もマネをして打ち合わせ中に英語でひたすら書いてみたこともあります。そういった記録を残しておけば、後で読み返した時にその場の雰囲気がよみがえってくるのです。



長年愛用のカード型メモ

さて、今の私はというと、上の写真に写っている白い小さな紙、これは私が長いこと使っているカード型のメモ用紙です。これをいつも持ち歩くべく特別に作ったケース・・・その大きさはちょうど私が使っているiPhone6Plusと同じくらいのサイズになっており、スマートフォンと一緒に持ち歩いています。

これに何を書いているかと言うと、“光をあやす”とか、“光のダイエット”、はたまた“光のトップギア”なんていう言葉が綴られています。これらは仕事中や移動中に急に思いついた言葉たちで、その言葉が消えてしまわないうちに即座にメモをとっているのです。そしてその裏側には、先ほどのジャーナルよろしくその時のその言葉を思いつくに至ったきっかけをきちんと記しています。

私の場合はこういった言葉がなんとなく引き出しになって、そこから発想が広がっていく感覚があるのです。もちろん、電車に乗っているときなどは、手持ちのスマートフォンの方が便利なので、メモアプリに記すこともありますが、紙のメモのほうが圧倒的に優れている点があるのです。それはシャッフルすることができる点にあります。いずれにせよ、考えたこと、言葉というのはどこかにすっ飛んでいってしまいがちなので、あわててそれをメモするという習性があります。



なぜ、言葉が重要か?

今年の7月は出張でイタリアに出かけましたが、そこでも様々なことを綴っています。改めて見返してみると、“食べることは生きること、イタリア人から学んだ”なんて書いていました。そして、面白いことにその翌週、生物学者の福岡伸一さんもまた同じようなことをおっしゃっていたのです。その時の記憶を蘇らせてくれる主観的な記録によって、言葉たちは生き生きと主張し、そこに、自分の関心事が視覚化され、あらたな相関関係が見えることがあります。ふと見落としがちなアイデアのかけらを創造の芽とする為に、今日も私は思いついた言葉を実況中継し、色んな体験やアイデアに繋がる種をまいているのです。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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Vol.141 照明のインフルエンサー?

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